サーチャーの自主性を重んじ
中小企業の承継と成長を支援する
サーチファンド・アクセラレーター
Japan Search Fund Platform
野村グループの野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(以下「NR&A」)とJapan Search Fund Accelerator(以下「JaSFA」)が2021年末に共同で設立したのが、サーチファンド・アクセラレーターのジャパン・サーチファンド・プラットフォーム(以下「JSFP」)である。NR&A代表取締役社長の茂木豊氏及び、日本におけるサーチファンドの第一人者であるJaSFA代表取締役社長の嶋津紀子氏に、JSFPの設立経緯と強み、日本のサーチファンドの特徴と展望、投資の仕組み等について伺った。
また、サーチファンドは、後継者候補(サーチャー)を起点とした事業承継手段とも言われるが、JSFPのサーチャーである片岸秀明氏及び前川鉄也氏には、探している企業、サーチャーになった理由や想いについて語ってもらった。
サーチファンドは、中小企業の後継者問題
の解決と経営人材の流動化をもたらす
――JSFPの設立の経緯を教えてください。
(茂木)JaSFAの代表取締役社長の嶋津紀子さんは、サーチファンドの発祥の地であるスタンフォード大学でサーチファンドを学び、日本に持ち込んだ先駆者です。ビジネス界に加え、アカデミック界でも高い知名度とネットワークを持つ嶋津さんと提携することで、質の高いサーチャー候補者を集められると考えました。嶋津さんとタッグを組みたいとスピード感を持って、提携を取り付けました。
――JSFPのGP(無限責任組合員)は、NR&AとJaSFAですが、両社の役割分担はどのようになっていますか。
(茂木)GPとしての意思決定、投資判断、投資後の投資先モニタリングは、両社共同で行っております。NR&AがLP投資家等と連携した投資候補先のソーシング、具体的な投資検討におけるDD・ストラクチャリング・ファイナンシング等の投資実務、契約や資金の管理を含めたファンドミドルオフィス運営実務等を中心に担当しています。
一方でJaSFAはサーチャーの募集・スクリーニングや、投資後の事業面のアドバイスを中心に担当しています。
――そもそも嶋津さんが、サーチファンドに注目し、そして、日本でサーチファンドを普及させようとしたきっかけや問題意識を教えてください。
(嶋津)サーチファンドは、MBA留学先の米国スタンフォード大学で初めて知りました。当時は、日本でほとんど知られていない概念で、カタカナでWeb検索をしても、ほとんどヒットしないような状態でした。
サーチファンドに魅力を感じた理由はいくつかあります。
一つは、深刻化の一途をたどる中小企業の後継者問題の、新たな解決手段になるのではないかということ。また、日本全体の経済成長を目指していく中で中小企業の成長が担う役割は大きく、大都市と地方、大企業と中小企業の間で経営人材の流動化が必要なのではないかということです。
若手人材にとっても、大企業で昇進を重ねるのとも、スタートアップでゼロからビジネスを立ち上げるのとも違う、すでにあるビジネスを改善し、成長させていくという形でのアントレプレナーシップの道が開けることはキャリア選択にとって大きなプラスになるであろうこと。投資としても、今後日本において一番希少になる「優秀な人材」を軸に組み立てていくことは、非常におもしろそうだと感じたこと、などがありました。
アントレプレナーシップ型で
欧米の成功例を日本で再現したい
――本場の米国のサーチファンドのモデルにおいては、サーチャーが投資するために設立するSPC(特別目的会社)がサーチファンドと呼ばれ、そこで投資家から資金を集めますが、日本では、サーチャーのSPCに投資するファンド(つまり、fund of search funds)がサーチファンドと呼ばれることがあり、このような日本型サーチファンドがサーチャーを支援する「サーチファンド・アクセラレーター」を兼ねていると理解しています。
日米のサーチファンドのモデルの違いについて、より詳しく教えてください。
(嶋津)サーチャーのSPCに投資するファンド(fund of search funds)がサーチファンドと日本で呼ばれることがある点については、私も認識していますが、単純に用語の誤用だととらえています。北米、南米、ヨーロッパ、オーストラリア、東アジア、東南アジア、どこに行っても、サーチファンドの定義は一つであり、このようにfund of search fundsをサーチファンドとご認識している事例はきいたことがありません。海外の生の情報に触れることなくサーチファンドを語る人が増えたことで、誤った認識が広がったのではと思っています。
日本にも、サーチャーが投資するために設立するSPCに複数の投資家が投資をする形態の「トラディショナル型」もありますし、欧米にも、サーチャーが投資するために設立するSPCに1つのファンドがほぼ独占的に投資をする形態の「アクセラレーター型」もあります。そもそも、日本でサーチファンドのアクセラレーターを行う、というアイディアは、当時米国ボストンにあったサーチファンドのアクセラレーターを訪問し、その創業者と議論をしたことでより深まったものでもあります。
日米のサーチファンドの違いという意味では、まずトラディショナル型とアクセラレーター型の割合が違います。米国はトラディショナル型が多く、日本はアクセラレーター型が多いです。また、日本は米国に比べて一人サーチャーの割合が高く、ペアでのサーチファンドは少ない点、また最近の米国サーチファンドの投資先の巨大化傾向や為替差もあり、日米の承継企業の規模感が異なってきている点などが挙げられると思います。
――このように日米のサーチファンドのモデルの違いを生んだ要因は何ですか。
(嶋津)私も最初はトラディショナル型でのサーチファンドの輸入を模索していたのですが、途中でアクセラレーター型に切り替えた過去があります。日本で最初に成立したサーチファンドがアクセラレーター型であったこともあり、その後日本のサーチファンドの主流はアクセラレーター型になったというのもあると思います。
なぜトラディショナル型でのサーチファンド輸入が難しかったかというと、サーチファンドに投資できる国内の個人投資家へのアクセスが極めて限られている点がまず挙げられます。事業承継まで含めると、トラディショナル型でも1口1億円程度の投資となることが多く、欧米のサーチファンドの個人投資家は数十億円以上の資産を持っていることが多いと思いますが、少なくとも私には、このような層の個人投資家を10から15人集める、ということが当時非常に困難でした。
スタンフォード周辺には、スタートアップを売却するなどして非常に裕福な投資家がたくさんいらっしゃり、大学の講師陣やその友人、知り合いの会社の投資家、親戚、隣人、MBAの卒業生等さまざまなつながりで、投資家を見つけることができていた印象です。
また、アクセラレーター型を志向した背景として、会社を売却するということがまだまだ一般的とまでは言い切れない中で、信用力のある金融機関や大企業と組んでサーチ(企業探索)活動を行うことに魅力を感じたという理由もあります。
――先ほど、米国のサーチファンドの投資先が巨大化しているという話がありましたが、なぜ起業家として成功したことがないサーチャーに大きな資金が集まるのですか。
(嶋津)投資家が、サーチファンドの利回りの高さに魅力を感じているからだと思います。サーチファンドは、従来のPE、VC、ヘッジファンド、REIT等と比べても利回りが高いという調査結果があり、これまでの投資家に加え、富裕層のファミリーオフィスからも資金が集まるようになってきています。米国のトラディショナル型のサーチファンドでは、10~15人の投資家それぞれが出資する金額が、1ミリオンUSDを超えることも多くなっています。今後は、もっと金額規模が大きくなる可能性もあります。
サーチファンドの利回りが高い要因として考えられるのは、一つは、サーチャーのコミットメントです。サーチャーはポートフォリオの一つではなく、自分の人生をかけて会社を経営するため、事業がうまくいかなかった時の粘り強さが違います。
もう一つの要因として、PEが投資するような大企業と比べて、サーチファンドが投資するのは中堅中小企業になるので、改善余地が大きいというのもあります。それらに加えて、サーチャーが足を運んで事業承継に漕ぎつけることで、相対取引となることが多く、納得感のある価格で投資できる可能性が高いということもあります。
――現在、日本でもサーチファンド・アクセラレーターがいくつか出てきている中で、JSFPの特徴や強みは何ですか。
(嶋津)日本のサーチファンド・アクセラレーターには、①地場密着金融機関型、②M&A仲介型、③アントレプレナーシップ型の3形態があるように思います。
①の地場密着金融機関型は、急速な成長に重きを置くというよりも、その地域に必要な企業を長期にわたって存続することや優秀な人材に長期移住してもらうことなどを目的としており、エグジットをMBOに限定していたり、投資企業の規模が小規模であったりすることも多いと認識しています。
②のM&A仲介型は、サーチ活動の大部分を仲介の方が行うことが多く、サーチャーはフルタイムでのサーチ活動を求められず、副業として登録だけしておき、良い企業が見つかれば勤務先を退社して経営者になる、といった形が一般的だと理解しています。
JSFPは、③のアントレプレナーシップ型を自負しており、日本の商習慣や法律、環境などにあわせて必要な部分を調整しながらも、可能な限り欧米の成功例を日本で再現しようと試みています。事業承継後の企業の成長に重きを置くとともに、サーチャーの自主性も大切にしています。
――サーチャーの自主性とは、具体的にはどういうことですか。
(嶋津)サーチャーは特に案件発掘の部分で、コールドコール、コールドメールも駆使して、自主性を発揮してもらいたいと思います。紹介された案件を検討するというのでは能動的とは言えません。一般的に、サーチファンドでは、サーチャーが自らの足で案件を探してくるものです。そのアドオンとして、JSFPからも案件を紹介できるというのがあるべき姿だと考えています。JSFPが行うのは、あくまで場と機会の提供であり、サーチャーと企業のマッチングではありません。
サーチャーがJSFPとともに
企業変革に取り組み、仕組みを構築する
――他の日本のサーチファンド・アクセラレーターの中には、あまり良いバリュエーションは出せないと言っているところもありますが、そのあたりはいかがですか。
(茂木)バリュエーションの仕方は、一律に決めているわけではなくケースバイケースです。低いバリュエーションでないと、投資できないということはないです。対象会社とサーチャーの相性、事業の安定性や将来の成長性の観点から検討します。
(嶋津)ファンドには、低い価格で投資することに強みのあるところや、投資後のバリューアップに強みのあるところがありますが、個人的には、我々は投資後のバリューアップで勝負ができるファンドでありたいと考えています。きちんとフェアな価格で投資をして、価値が出せるようでありたいということです。米国でもサーチファンドの鉄則として、経営の未経験者が会社に入るので、安定した良い会社に投資すべきと言われています。
――サーチャーをどのように募集し、選定していますか。また現在何名のサーチャーがいますか。
(茂木)サーチファンドのモデルを知ったサーチャー希望者や、サーチャーからの紹介者等、多くの応募があります。MBA留学前の興味のある方やビジネススクールの学生向けに説明会も開催しています。サーチャーになりたいという能動的な姿勢を大切にしています。
サーチャー希望者との面談においては、コミュニケーション能力、行動力、経営者に必要な一定のハードスキルなどを、JSFPとして総合的に見させていただいております。これまで7名のサーチャーを採用し、うち3名のサーチャーが事業を承継し、経営を担っております。
(前川)私が通っていた日本のビジネススクールにアントレプレナーシップの科目があり、その中でサーチファンドをテーマにした授業がありました。元々は、ビジネススクール内でも、サーチファンドを知らない人が7~8割でしたが、サーチファンドに対する関心度は非常に高く、サーチャーになりたがる人は多数いました。
――サーチャーになると、まずはフルタイムで給料をもらいながら投資案件を探すのですか。サーチ期間の期限はあるのでしょうか。
(茂木)JSFPのサーチャーは専任契約を結んでおり、原則前職を退職してサーチ活動に専念していただいております。サーチ活動の期限は1年ですが、サーチ活動の進捗によっては、期限を延長することもございます。
――そして、投資時にサーチャーは一部株式やストックオプションを得て、代表取締役等の役員に就任するのですか。
(茂木)ご指摘の通りです。ただ、ストックオプションではなく、JSFPとサーチャーが、投資元となるSPCの共同株主になることが多いです。基本的には、サーチャーに代表取締役社長として経営を担っていただくことになります。
――投資前及び投資後のJSFPとサーチャーの役割分担はどうなっていますか。
(茂木)サーチャーが、事業承継先の発掘、オーナーとの交渉、投資実行、投資後の経営と一貫して対応するのがサーチファンドのユニークな点です。JSFPは、投資前後問わず、上記の一貫したサーチャーの活動に伴走します。尚、LP投資家様へのご対応等、ファンド実務はすべてJSFPが担います。
例えば、条件交渉においては、バリュエーションや法務・税務等のテクニカルなところはJSFPが主に担います。とはいえ、サーチャー抜きで進めていくことはなく、JSFPとサーチャーが一緒につくりあげた内容でオーナーと交渉していきます。実際にオーナーと協議する際には、JSFPが交渉する場合もあれば、オーナーとの関係構築もできているサーチャーが交渉をリードする場合もあり、そのあたりはフレキシブルに対応しています。
――これまでの投資実績について教えてください。
(茂木)これまで3件の投資実績がございます。
1件目は神奈川県横浜市の訪問看護事業を営む「メディプラス」、
2件目は千葉県千葉市の住宅総合会社「フレスコ」、
3件目は三重県四日市市の総合ビルメンテナンス会社「ジェクティ」です。
尚、1件目、2件目は相対交渉で投資、3件目はM&A仲介会社からの紹介です。
――投資案件は、どのようにエグジットするのですか。その際、サーチャーはどうなりますか。
(茂木)ファンドとしては、5~7年程度の株式保有を想定しております。
エグジット時には第三者への譲渡、上場、サーチャーによるMBO(経営陣による企業買収)などの選択肢が考えられますが、基本的には第三者への譲渡になるかと思います。
ただ、実際に後継者となるサーチャーの中には、ファンドが株式を売却した後も会社に残り、長期的に会社の成長と変革に取り組みたいと考えている方も多くおります。サーチャーが引き続き残ることを前提に他ファンドへ株式をお譲りする形や、上場、自社株買いを含めたMBOなど、ファンドの出口は会社の状況やサーチャーの意向にも配慮しながら、丁寧に検討してまいります。
また、そもそもサーチファンドでは、サーチャーがJSFPとともに経営を率いる5~7年の間に、中長期での更なる飛躍に向けた変革に十分取り組み、内部での後継者育成や自走できる組織作りなど、次の経営者にバトンを引き継ぐ準備を行うことを前提としております。企業の半永久的な繁栄に向け、ゆるがない企業の強みや信念を守りながら経営者が次の経営者にバトンをつないでいける仕組みを構築することが、企業の変革期を担うサーチファンドの役目であると自負しております。
オーナーや従業員の皆様の想いを引き継ぎ
事業の更なる成長を必ず実現させたい
――片岸さんと前川さんは、何がきっかけでサーチャーになろうと思ったのですか。
(片岸)前職である商社での経験と偶然の出会いからでしょうか。前職では新興国の投資先に出向をして役員として事業開発に従事する等、既にある仕組みを利用して、更に事業を成長させるというサーチファンドに近しい経験をさせていただき、その醍醐味も感じておりました。任期を終えて日本に帰国後、友人を通じて偶然サーチファンドという仕組みを知ることとなり、自己実現と社会的意義の大きい本取り組みにある意味一目惚れをし、チャレンジをすることにしたという経緯があります。
(前川)事業会社で開発、製造(外部調達を含む)、販売を一気通貫で担当した経験や、通算12年の海外におけるマネジメント経験、また、座学を通して身に着けた汎用的な経営リテラシーを、業種・業態や規模が異なる印刷会社における経営再建に活かすことが出来ました。また、企業規模が小さくても代表取締役副社長の立場で経営に携わったことで、心労は多いものの、やりがいや自身の多面的な成長を感じることができました。
この体験から、自分よりも更に若く優秀な人材が、早い段階で中小企業経営に挑める仕組みがあると、中小企業ひいては日本の活性化と、枯渇している経営人材の育成を両立できるのではないかと漠然と考えていたところ、「サーチファンド」に出会いました。そして、平日の夜間と週末に通っていたビジネススクールで2021年にサーチファンド研究会を立ち上げ、サーチファンドの認知を広め、海外及び国内の先行事例を学び、サーチャー志望者を後押しする活動をはじめました。私自身は前職で中小企業の経営経験があり、PEの投資先CXOのキャリアも検討対象ではありましたが、サーチファンドを広める立場として、自らサーチャーになる決断をしました。
――どのような企業を探していますか?
(片岸)特段業種で絞ることはしておらず、自身の事業開発や販売マーケティングの知見、技術的な素養を活かして成長に貢献できる先を探しております。サーチ活動を通じて日本の中小企業の業種・裾野の広さを痛感しており、最終的には個別論にはなるのですが、オーナー様の事業に対する想いや組織文化等が、自身の考え方と合致しているか、という点は非常に重要と考えております。
(前川)これまでの経験が活かしやすいBtoB、製造系の企業、BPO事業を中心に、磨けば更に光る独自性や競争力のある企業を探しております。規模感としては、調整後のEBITDAで1~4億円程度の企業です。中小企業の中では優良企業に属する企業が対象になりますが、この規模であっても組織化ができておらず、オーナー経営者一人の力で牽引されている企業が多い状況です。第三者承継であっても、後継者個人を見極めて決断したいというオーナーにこそ、初回面談から「私が後継者候補です」とサーチャーが現れるサーチファンドに魅力を感じていただけるため、オーナー様の志向も重要視しています。
――サーチャーとしての想いや夢を聞かせてください。
(片岸)ご縁があった企業様には、オーナーや従業員の皆様の想いを引き継ぎ、これまで得た経験・知見・ネットワークのすべてを注ぎ込み、事業の更なる成長を必ず実現させたいと思っております。短期的な施策のみならず、長期的かつ本質的な課題解決に取り組み、同社事業の成長のみならず、停滞感の漂う日本の産業全体への貢献が出来れば仕事冥利に尽きると思っております。
(前川)私も片岸さん同様、自らの活動を通しご縁のあった企業の経営に人生を懸けて取り組み、オーナー及び社員、ステークホルダーの方々がより幸せになることや、自身が退任した後も継続的に発展するためのモデル強化、組織づくりへ貢献したいです。まずはサーチャーの立場から「サーチファンド」を日本に広め、そして将来はサーチャーの活動を支援する側にまわることも考えています。そうすることで、中小企業ひいては日本の活性化や経営人材の育成を後押しすることをライフワークとして取り組んで行く所存です。
PEと個人買収の間を埋めるものとして
サーチファンドは定着・発展していく
――2号ファンドはどれくらいの規模になりそうですか。
(茂木)できれば1号ファンドを上回る規模で2号ファンドを立ち上げたいと思っております。まだ1号ファンドのサーチャーの投資実行が完了しておりませんので、ある程度投資が進んだ段階で2号ファンドの立ち上げを進めていきたいと思います。
――今後、日本でサーチファンドはどのように発展していくと思いますか。また、より発展していくためには、何が必要と思いますか。
(嶋津)サーチファンドは、さまざまな類型が生まれながら、「経営者を迎え入れながら株式を譲る」形として定着していくのではないかと考えています。事業の規模感やサーチャーのバックグラウンドなどが多様化する中で、PEと個人買収の間を埋めるものとして、なだらかに業界がつながっていくのではないでしょうか。
よりサーチファンド業界が発展していくためには、まずは誰もがぱっと理解できる成功例が必要だと考えています。成功例が出て、投資家もサーチャーも金銭的に報われ、また会社が成長して社員のやりがいや雇用満足度もあがっていくことで、サーチャーにあこがれる次世代のサーチャー候補が増え、サーチファンドに投資をする投資家が増え、サーチファンドに事業を譲る中小企業オーナーが増え、サーチファンドの業界が大きくなっていくのだと思います。
――サーチファンドのモデルを知らない中小企業の経営者はまだまだ多いと思います。事業承継を考えている経営者に対し、メッセージがあればお願いします。
(嶋津)サーチ活動の中で、「後継者を自分で見極めたい」、「お金よりも、会社を成長させ社員を守ってくれる人に譲りたい」、「良い後継者がいるのであれば承継してもよいが、別に今すぐでなくてもよいので積極的には探していない」というお悩みやお声に触れることがあります。サーチファンドは、まず後継者候補に会って話ができるという点が大きな魅力です。会社の売却について、決断している必要はありません。まずは軽い気持ちでサーチャーにお会いいただいて、会社の歴史や未来について、語り合う機会をいただけないでしょうか。
――サーチャーを目指す人にも、メッセージをお願いします。
(嶋津)JSFPのサーチファンドは、「ETA=Entrepreneurship Through Acquisition(事業承継を通じたアントレプレナーシップ)」を強く意識しています。ゼロからイチを生み出すよりも、すでにある仕組みや組織を改善し、目標を立て、その目標を達成するための戦術を考えてPDCAを回し、チームを強くしながら成長を目指す「グロース経営」が好きだったり、向いている人は、多くいるのではないかと思います。興味を持っていただいた方は、JaSFAのホームページよりお問い合わせいただければと思います。
(片岸)サーチファンドはまだまだ新しい取り組みであり、試行錯誤も多いですが、迷っている方がいらっしゃれば、一度チャレンジをするのも一案かと思います。人生は一度きりです。サーチャーの仲間が増えることは嬉しく思いますし、共にこのような取り組みを盛り上げていきましょう。
(前川)日本には世界に誇る技術力がありながらマーケティングが得意でなかったり、潜在能力が優れている社員がいても、不十分な教育による知識の不足や挑戦の場が与えられず、人材が育っていなかったり、原価が高騰する昨今でも取引先の大手企業と上手く交渉できず十分に価格転嫁ができないといった本来持っている力を発揮しきれていない中小企業がたくさん存在していることを自身のサーチ活動を通して実感しています。大企業の中で自分がいなくなっても代わりがきく仕事より、あなたにしか出来ない仕事で社会に貢献できる機会をサーチファンドで一緒に掴みましょう。
(インタビュー日時:2024年6月5日)
野村リサーチ・アンド・アドバイザリー
代表取締役社長
茂木 豊(もぎ ゆたか)
住友信託銀行にてストラクチャードファイナンス、エートス・ジャパンにて企業・債権・不動産投資に従事。2005年から野村證券投資銀行部門にて日本のM&Aアドバイザリー部門ヘッド就任まで多くのM&Aアドバイザリー案件を手掛け、ファンドカバレッジヘッド、欧州投資銀行共同ヘッドを歴任。その後、野村ホールディングスのインベストメント・マネジメント部門担当執行役員として、プライベート投資業務を担当し、野村スパークス・インベストメント代表取締役社長兼Co-CEOを現任。また、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーの代表取締役社長として、サーチファンドビジネスの立ち上げを行う。
株式会社Japan Search Fund Accelerator
代表取締役社長
嶋津 紀子(しまづ のりこ)
ボストン・コンサルティング・グループにて大企業の経営戦略立案等に従事した後、スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得。「サーチファンド」の発祥地であるスタンフォードでは、同モデルの考案者や投資家、経験者等から直にサーチファンドを学ぶ。帰国後は、日本におけるサーチファンドの第一人者として株式会社Japan Search Fund Accelerator (JaSFA)を設立し、代表取締役社長に就任。日本初のサーチファンド・カンファレンスの開催を皮切りに、YMFG Search ファンドの設立・運営を経て、ジャパン・サーチファンド・プラットフォーム(JSFP)の設立にいたる。中小企業政策審議会臨時委員や、投資先の社外取締役などを務める。
サーチャー
片岸 秀明(かたぎし ひであき)
三菱商事に14年間在籍し、主に自動車及びIT関連事業に従事。
国内SIer業界の法人営業、日本IBMへの出向やインドネシア自動車事業のマーケティング、貿易実務、投資管理などを経て、2017年よりインドネシアの自動車販売金融会社へ事業開発担当取締役として派遣。多様なバックグラウンドを持つ現地人材をリードし、デジタル技術(デジタルマーケティングによる売上増やアプリ開発によるオペレーション効率化)を活用した中古車販金事業の立ち上げをゼロから主導。メンテナンス付リースのオペレーション改善や新しい金融商品の開発等、様々な事業開発に従事。
南カリフォルニア大学 情報工学修士課程修了。
東京大学工学部 航空宇宙工学科卒業。
サーチャー
前川 鉄也(まえかわ てつや)
事業会社2社を経て、生産財ECプラットフォームのミスミグループ本社に15年在籍。主力事業であるFA事業のタイ、中国、北米地域の責任者として商品開発・製造・営業・EC構築を主導し、事業成長に貢献。その後、親族が経営する売上60億円、270名規模の印刷会社に入社し、代表取締役副社長の立場で、長期赤字に陥った企業の黒字化とM&Aによる大企業グループ入りを実現。
早稲田大学大学院経営管理研究科(MBA)卒業。