ジャフコ グループが約18年振りに
バイアウト専用ファンドを設立
「企業の成長にフォーカス」する
その投資手法と支援体制とは

ジャフコ グループ株式会社
事業投資部長 兼 マネージング・ディレクター
南黒沢 晃 氏 

ベンチャーキャピタルとして、長年に渡って日本のベンチャー投資を牽引してきたジャフコ グループ(東京都港区。以下「ジャフコ」。)は、実はバイアウト投資においても、その黎明期から投資を開始し、豊富な実績を誇る。
この度、約18年振りにバイアウト専用のファンドを設立したジャフコでバイアウト投資を統括する南黒沢氏に、これまでの沿革、投資実績、独自の投資スタイル、求める人材、そして投資先の成長のための支援体制等について伺った。

日本のバイアウト投資の黎明期に参入し
2018年にはパートナーシップモデルを導入

――貴社は1973年に野村證券、日本生命保険、三和銀行(現三菱UFJ銀行)が合同で、ベンチャー投資専業の会社としてスタートし、その後、1998年からバイアウト投資を始めていますが、どのような経緯でバイアウト投資を始めたのでしょうか。

私は当時入社していなかったので、すべて伝聞ですが、1997年に当時の村瀬社長の号令の下、全社的に成長戦略をテーマとして、人事制度・インセンティブ制度・組織体制・投資体制・パフォーマンス管理方法等の幅広い議論がなされていました。その過程で当時の尾崎取締役(アント・キャピタル・パートナーズの創業者)が新規事業としてバイアウト投資の立ち上げを強く推していました。

尾崎取締役の主張は「ヨーロッパではバイアウト投資が盛んであり、日本でも遅かれ早かれバイアウト投資が行われるようになっていくので、ジャフコとしていち早く取り組み、ベンチャー投資に続く事業の柱として育てていくべき」というものでした。「事業として社会的認知を得るにはまだ数年かかるかもしれないが、時代のうねりがそこまで来ていることが感じられる」、というのが当時の経営陣のコンセンサス(弊社の30年史に記載されています)だったそうです。

1998年には「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」が施行され、日本でも複数のPEファンド(ユニゾン・キャピタル、アドバンテッジパートナーズ、MKSパートナーズ等)がファンドの立ち上げに動き始めました。ジャフコはベンチャーキャピタルのイメージが強いですが、実は同じタイミングでバイアウト投資事業をスタートさせています。

――2017年には野村ホールディングス及び野村総合研究所が保有する全株式を買い取って完全独立系の投資会社となり、そして2018年には運営体制としてパートナーシップモデルを導入しています。これにより、投資スタイルや投資判断に変化はございますか。

2017年の野村グループからの資本の独立は、さほど投資スタイルや投資判断に影響を与えていないと思います。2010年以前は野村グループ出身者が代表取締役に就任していましたが、ジャフコにプロパー入社した現在の取締役会長の豊貴が2010年に社長に就任して以降、徐々に独自の経営スタイルを確立していったため、7年が経過した2017年時点では野村グループの影響はだいぶ薄れていた、というのが実態だと思います。

2018年にパートナーシップモデルを導入して以降は、投資スタイル、投資判断に大きな変化がありました。所謂サラリーマン・ファンドマネージャーが中心となってファンドを運営していく体制から、自らも多額の資金を拠出してリスクを負いつつ、成果が出た場合は相応のリターンも享受するパートナーがファンドの運用責任を担う体制に切りかわりました。当たり前ですが、パートナーはファンドに関する事項は他責にすることはできず、すべて自分事になりますので、当事者意識のレベルが違います。

投資判断はパートナーの全員一致というルールで運営しており、全員に拒否権があります。ファンドに組み入れたくない=反対する場合でも、他のパートナーに対する説明責任が問われます。私もベンチャー投資の投資委員会にも参加していますが、1件1件の吟味度合い、自分ないし自チーム以外の案件への向き合い方、集中度が格段に増したと実感しています。

尚、これまで一つのファンドからベンチャー投資とバイアウト投資を行っていたのが、今後はバイアウト専用のファンドから投資していくことになります。バイアウト投資のファンドの投資委員会のメンバーは、私、バイアウト投資のマネージング・ディレクターの他の3名、社長の三好の合計5名になり、これまでと同様に基本的に全員一致で意思決定をしていきます。通常一つの案件で、3~4回投資委員会に諮っています。

成長にフォーカスした投資スタイルで
投資後の企業価値向上を徹底的に支援

――バイアウト投資における代表的な案件について教えてください。

1998年からスタートし24年間で55社(2022年11月時点)への投資を実行してきましたので、多くの代表的な案件がありますが、古いところで言うと解熱鎮痛剤としてよく知られている「カロナール」への投資(2004年12月)は代表案件かと思います。TOBと産業活力再生特別措置法の特例を用いた株式交換を組み合わせた投資スキームは当時においては珍しく、大きな話題を呼んだと聞いています。投資後3年半弱でエグジットし高パフォーマンスを残しています。

また、“10分1,000円カット”で有名なQBハウスを運営する「キュービーネットホールディングス(現東証プライム上場)」も代表的な案件の一つです。2010年に投資し、出店拡大、海外進出、ガバナンス体制の強化、また、理美容師の品質向上のため理美容師の正社員化・教育研修を積極的に推し進め、企業価値向上に努めました。理美容業界においての社会的インフラの一端を担うまで成長し、結果として、高い投資パフォーマンスにいたりました。

2012年以降の投資は、それ以前のモニタリング中心のスタイルから、投資先に対する人的リソースの投下を増加させて、経営陣と一体になってPLを作っていく、成長にフォーカスした投資スタイルに徐々に変化していきました。そのスタイルでの投資の先駆けとなった「ペイロール(現東証グロース上場)」は、クライアントの積み上げや、マイナンバー事業等の新しい事業の立ち上げ等で高い成長を実現することができたため、当社のターゲットリターンを大きく上回った案件となります。

――貴社のバイアウト投資の特徴や強みについて教えてください。

ベンチャーキャピタルとして49年の歴史と実績を有するジャフコは、「新事業の創造にコミットし、ともに未来を切り開く」をミッションとしております。ジャフコにおいてバイアウト投資を行う事業投資部は、1998年の部門創設以来、「企業の第二創業にコミットし、ともに未来を切り開く」をテーマに、事業承継問題に真正面から取り組んでまいりました。

創業・成長・成熟・衰退という企業のライフサイクルを乗り越えて、成熟過程の企業を再成長させる。企業の新陳代謝を促進し産業構造の変革に寄与する。リスクマネーの供給というPE投資の機能を通じて、これらを促進していくことで、失われた30年といわれる日本の閉塞感を打破する一助になりたいと考えております。

2012年以降は、リスクマネーの供給にとどまらず、企業の成長にフォーカスし、投資スタイルの変革に取り組んでまいりました。投資後は、投資先企業に半常駐しながら、ガバナンスの改革、経営戦略、オペレーション、ブランディングまで幅広く関与し、時には自らが主体的に経営を行う等徹底して関与するスタイルを取っております。

ジャフコは、ベンチャーキャピタルが出自ということもあり、伝統的なバイアウトの投資領域をカバーしつつも、グロース案件(オーナー兼社長が売却後一部再出資し再成長を一緒に目指すケースや、エグジットのメインシナリオをIPOに定めるケース)を中心としつつ、加えてスタートアップ・アーリーステージの企業もバイアウトする投資(ベンチャーバイアウト投資)も展開してきました。ポートフォリオのバランスを取りながらも高い変化率の獲得を目指すことで、ファンドパフォーマンスの最大化を追求するスタイルを継続しています。各ステージの企業・事業の見極めや、レバレッジに限定せずに、事業を成長させ業績を拡大させた経験と実績があります。

――貴社にはBD(ビジネスデベロップメント)という「HR」「マーケティング・セールス」「バックオフィス」で投資後の企業価値向上を支援する部隊がありますが、具体的にどのような支援をしているか教えてください。

「HR」は、どの投資先でもほぼ支援させていただいています。まず、「人を採る人を採る」という意味で、CHRO(Chief Human Resource Officer)や人事部長を採用することがあります。投資先において、持続的に良い人材を採用して定着させることや、評価制度、人事制度を含めた組織設計をしていくことはとても重要ですので。また、CXO的なポジションの採用もさることながら、ミドルクラスの採用であったり、エンジニアに特化した採用であったり、これまでのネットワークに工夫を加えて、上手く採用プロセスの選択肢、方法も広げてきており、採用の対象範囲自体も広がってきています。例えば投資後、10人以上の採用をサポートした投資先もあります。

「マーケティング・セールス」は主にBtoB向けビジネスに効果大です。単なる顧客紹介に留まらず、投資先のプロダクト/サービスを対象としてウェビナーを企画し、集客・開催支援・リード獲得のためのフォローまでを行います。集客を呼びかけるメーリングリストも常時数万件を確保しています。ある投資先では、リード獲得件数の内、50%以上がジャフコ主催のウェビナーに依るものになっています。

投資先でのPMIにおいて、事業ドメインを変更して利益構造を変え、それをもって高い評価のバリエーションを追及するケースがあります。事業ドメインを変更して半ば強引にでも売上を作りにいかなければならない局面もあり、その際「マーケティング・セールス」機能があるかないかでは結果にも大きな違いが生じます。その意味で能動的に売上を作りにいける「マーケティング・セールス」には頼もしさを感じており、ジャフコとしての大きなストロングポイントだと思います。

「バックオフィス」は主に、上場を目指す場合、上場準備支援から資本戦略の提言、また、組織運営体制やコーポレートガバナンス強化等に関する専門的な知見を提供します。1000社を超えるIPO実績から得られた経験やネットワークを最大限に活用した支援をさせていただいています。

様々なバックグラウンドを持つ⼈材が
責任を持って一気通貫で担当

――投資後は、貴社の人材がどのように投資先に関与するのでしょうか。人数、期間、役割等ケースバイケースかとは思いますが、典型的な事例等を教えてください。

バイアウト投資部⾨は、ベンチャー投資部⾨で実績を積んだメンバーに加え、⾦融機関、PEファンド、コンサルティングファーム等他社で経験を積んだ様々なバックグラウンドを持つ⼈材で構成しています。案件毎に3〜4名のチームを組成し、ソーシングから投資スキームの検討、売り⼿との交渉、投資実⾏から、投資後のバリューアップ、エグジットまで⼀気通貫して案件を担当します。案件開拓、投資実行、PMIの各フェーズを分業型で取り組むPEファームも存在していますが、ジャフコのバイアウト投資においては、投資後のバリューアップを目的に最低でも最初の1~2年は投資先の現場に半常駐するスタイルを取っています。

投資後に、経営陣・従業員との密なコミュニケーションが必要なこと、事業成長に対してより高いコミットメントが求められること等から分業制ではなく一気通貫型のスタイルを重視しています。自ら案件開拓した先に投資実行したメンバーが、高い志とコミットメントにより、投資先の事業・技術をより深く理解(現場・現物・現実を重視)し、常に新たな視点やアイデアの提供に努めます。経営陣・従業員と困難な課題の解決に一緒に汗をかいて取り組むことで深い信頼関係を醸成し、投資時に作成した事業計画を達成することで、IPOやM&Aでのエグジットを目指していきます。

この一連の密度の濃い過程を経験することで、各担当者の加速度的な成長を促し、そのPMI、エグジット経験が新規開拓や投資実行の更なる質的向上にも繋がっていくと考えています。この担当者の成長の連続性を再現していくことでファンドパフォーマンス向上に繋げていきます。

――貴社では案件の主担当のことを「ドライバー」と呼んでいて大きな裁量を持たせているとのことです。ドライバーの役割やチーム編成の仕方について教えてください。また業界によって担当者がある程度決まっているということはあるのでしょうか。

案件毎に3〜4名のチームを組成し、ソーシングから投資スキームの検討、売り⼿との交渉、投資実⾏から、投資後のバリューアップ、エグジットまで⼀気通貫して案件を担当しますが、その際、投資先現場でのリーダー的役割を担う主担当をドライバーと呼んでいます。ソーシング、エグゼキューション、PMI、エグジットの各フェーズでドライバー以外のメンバーは入れ替わることもありますが、ドライバ―には一気通貫して担当してもらいます。

ドライバーがソーシングしてきた案件はドライバーが主体となってチームメンバーを募り、他のメンバーは自分のリソースを一定程度割いてでも当該案件のチームにジョインしたいかを考慮して手を上げるかどうか判断します。他案件とのリソース分配等で私が注文を付けたり、調整を図ることは当然ありますが、コミットメント度合いを重要視しておりますので基本的にはドライバーに1次的なチーム編成をさせています。まだドライバーを任せられない経験の浅いメンバーに関しては、自らがソーシングから案件化を図っていくフェーズでは、ドライバーができるメンバーにドライバー役を依頼して、了解を得る必要があります。

尚、業界によって担当者を決めるということはしていません。例えば、同じアパレル業界の会社でも、会社によって全然違うわけです。1~2社ある業界の案件を担当した程度で、その業界が得意とは言ってはいけないと思いますし、逆に言うと、その業界を担当した経験がなくても、問題なく検討できることもあります。いずれにしても様々な案件の経験を積んで知見を蓄積していくことが大事です。

――現在バイアウト投資は、何名のプロフェッショナルがいるのでしょうか。今後もっと増やしていくのでしょうか。どのような人材を求めていますか。

私含めて17名です。今のファンドの組入期間(およそ3年程度)の間に、あと3名程度を追加して、20名体制にしていく予定です。
ちょうど数カ月前に「こんな人物を採用したい」というテーマについて部門で言語化したものが以下になります。

・常に明るく前向きに挑戦を楽しめる人物
・すべてを自分事ととらえ他責思考にならず、自ら動いて複数の目的を同時追求できる人物
・企業の第二創業を切り開いていく意志と気力をもった人物

価値観の変化、デジタル化、テクノロジー
の影響を見極めて投資判断を下す

――これまで一つのファンドからベンチャー投資とバイアウト投資を行っていたのが、今後はバイアウト専用のファンドから投資していくとのことですが、ベンチャー投資とバイアウト投資でファンドを分けた理由やそのメリットを教えてください。また、バイアウト投資のファンドのファンドサイズ、投資基準、想定年間投資件数等を教えてください。

投資後は、投資先企業に半常駐しながら、経営に幅広く関与し、また時には自らが主体的に経営を行う等徹底して関与するスタイルをより鮮明にし、ジャフコのバイアウト投資のプレゼンスをより確立すべく、約18年ぶりにバイアウト投資専用ファンドを設立することにいたしました。

ジャフコ独自のバイアウト投資を訴求していくことで、より多くの投資機会を得て、厳選した投資を行ってまいります。ジャフコにおける専門性や知験、ネットワーク、ベンチャーキャピタルとしての事業成長ノウハウ等を活用しながら、ジャフコのバイアウト投資をより磨き上げてまいります。これら一連のサイクルを通じて成功を再現し、ファンドパフォーマンスの最大化に努めるとともに、企業の第二創業に貢献してまいります。

ファンドサイズは200~300億円。企業価値で50~150億円程度の企業が対象となります。年間の投資件数は3~4件を想定しています。

――投資判断の際、特に重視している点は何ですか。また昨今のESG/SDGs重視により投資判断は変わりましたか。

時代の変わり目を捉える、というと大袈裟かもしれませんが、価値観の変化(働き方の多様化、サステイナビリティ志向etc.)、デジタル化(コロナ禍で加速、エスタブリッシュな業界におけるクラウド普及etc.)、テクノロジーの進化・普及(次世代エネルギーの開発加速)等が対象会社の事業に与える短期、中長期の影響を重視します。そこに対する想像力、仮説立案力が我々の業務の一つの肝だと思っています。イメージですが、短期、中長期の未来を自分の脳裏でフルカラーの動画で再現できている場合の投資は上手くいく自信がありますが、白黒の静止画でしか想像できない場合は、見送りの判断をすることが多いです。

ESG/SDGsはDD(デューデリジェンス)フェーズとPMIフェーズに既に組み込まれており、試行錯誤中です。対象会社のDDにおけるQA作業において、ESGチェックを組み込んでいます。投資委員会資料では担当の仮説ベースで、対象会社の事業がSDGsの17のゴール、169のターゲットのどれに当てはまるのかを記載させるようにしています。投資実行後は、「SDGs Compass」に従って、対象会社のSDGsに対する理解度、進捗度を把握します。その上で、SDGs Compassの次のステップに進むように必要に応じてファシリテートしていきます。

――今後、投資対象として特に注目している業種等はございますか。

特に業界、業種で投資対象は絞っていませんが、どちらかというとBSが有形資産が中心で有形資産に依拠してPLが作られている企業よりも、無形資産重視の傾向が強いです。競争力を有するブランド、IP資産、ネットワーク、オペレーションノウハウを有している企業の、その独特の強みを活かして、より成長をさせていくためにはどういうアプローチがあるのかを喧々諤々議論し、自分達の仮説を対象会社の売主、経営チームにぶつけていくソーシングのスタイルを今後も続けていきたいと考えています。

一方で、今であれば地政学問題や為替問題等の影響をダイレクトに受ける業種は、投資を避けざるを得ません。どちらかというとその都度タイムリーに慎重になるべき業界、業種にアンテナを張って投資対象先を吟味していく傾向が強いかもしれません。

――意思決定の質を高めるために、個人として、またはバイアウト投資部門として、気をつけていること等はありますか。

個人的には、素直でいること、ニュートラルさを保つこと、常に現在の自分の思考になんらかのバイアスがかかっていると思うこと、を意識しています。

担当に対しては意思決定の際の立ち位置についてよく指摘しています。我々は色々な立ち位置になる場合も多く、立ち位置によって意思決定も変わってくる場合があるからです。基本的には、ジャフコを代表してその会社の資産を守り、かつ(直接・間接の関与の仕方を問わず)キャッシュ及び将来のキャッシュメイク力を増すことに責任を負っているアセットマネージャーでありファンドマネージャーという位置づけであることをよく言っています。

――日本のバイアウト投資市場は今後どうなっていくと考えていますか。

日本のPE(プライベートエクイティ)市場がスタートして四半世紀近くが経過し、経営者のPEファンドに対する理解と受容は大幅に進み、M&A市場の順調な拡大とともに、PE市場も長期的な成長傾向を維持しています。大規模案件の有無によって各年度の案件総額は大きく変化しますが、案件数は増加基調で推移していると認識しています。

欧米では事業を拡大・成長させる手段としてM&Aが活発に行われてきましたが、日本でM&Aというと、敵対的買収や乗っ取り、経営不振、経営責任の放棄等のネガティブなイメージが強く、近年まで経営戦略の中では限定的な位置付けでした。1997年に金融機関の破綻等で日本経済がマイナス成長に陥る中で、M&Aを実施しやすくなる制度改正が行われました。2005年頃からはM&A仲介会社等が増え、事業承継の潜在的ニーズを持つ先への提案を積極的に行うようになり、事業承継にM&Aを活用する経営者が増えてイメージが変わってきました。

しかしながら、PE市場規模を対GDP比で見た場合、日本は先進諸国と比べていまだに小規模であり、アメリカの約1/6です。日本ではM&A案件に占めるPEファンドの割合が低いこと、およびM&A件数が他国よりも少ないことが要因です。その分大きな伸びしろを有しているマーケットとも言えます。

――最近は、バイアウトファンドが買収後に、IPOしたり、企業価値を大きく上げたりするような成功事例も増えてきていると思います。最後に、事業承継等で譲渡を検討している企業オーナーに向けてメッセージがあればお願いします。

最近は、対象会社のオーナー兼社長が売却後に一部再出資(10~30%程度)をして一緒に成長を目指すケースが増加しています。LBOスキームであれば再出資の金額も抑えられますし、「更なる成長を目指すためにファンドと組んだ」、「IPOを目指すために国内最大手のベンチャーキャピタルとパートナーシップを締結した」という打ち出しも可能です。

事業承継で譲渡を考えている方だけではなく、より会社を成長させるための手段としてバイアウトファンドの活用を選択肢として考えていただける方が、より増えていけば幸いです。

(インタビュー日時:2022年11月18日)

ジャフコ グループ株式会社
事業投資部長 兼 マネージング・ディレクター  
南黒沢 晃(みなみくろさわ こう)

1973年生まれ。名古屋市出身。千葉大学教育学部卒。
ユニファイドパートナーズ、野村證券等を経て2012年にジャフコ(現ジャフコ グループ)に入社。2018年にパートナー就任。2022年に事業投資部長 兼 マネージング・ディレクターに就任。ジャフコ グループのバイアウト投資を統括。