成長期・成熟期にありながら
事業承継に課題を持つ企業に投資し
さらなる飛躍・IPOを支援
【後編】

インタビュー~これまでのキャリアとファンド業界で働くことの意義

[前編]では、CLSAキャピタルパートナーズジャパンのディレクター山口龍平氏にバイアウトファンドの特徴や仕組み、成長支援などについて解説いただきましたが、今回の[後編]では、山口氏に自身のキャリアとファンド業界で働くことのやりがいなどについて語ってもらいました。
(尚、本稿では、バイアウトファンドのことを単にファンドと記載します。)

投資先のためを思い、汗をかけば
必ず思いは伝わる

――外資系証券会社に新卒で入社し、4年後にファンド業界に転じましたが。きっかけは何でしたか。

私は、高校・大学をイギリスで過ごしてきた中で、志高く「日本をもっと良くしたい」という思いを持ち、投資銀行で4年間務めました。そこで従事したM&Aは、社会的インパクトも大きいですし、重要な役割を担っていると実感した一方で、当時の日本において、本当に日本の社会を良くするようなM&Aをつくり出せるトップバンカーはものすごく限られているなと思い知らされました。もう1つは、より事業会社の経営に携わりたいなという思いが強くなったことです。読んでいる本も経営関係の本が多くなり、実業を意識し始めました。そんな折にファンドと仕事をする機会もあり、ファンド業界に興味を持つようになって、CLSAを選んだというわけです。

――2011年にCLSAに入社し、9年が経過しましたが、この間、どのようなキャリアを歩んできましたか。また、この仕事のやりがい、難しさは何ですか。

ファンド業界はまだ歴史も浅く、投資銀行などと違って、キャリアプランの正解はまだ存在しないと思います。ただ私自身は入ったからには多くの案件に携わりたいと考えていたので、9年間で7件の投資とファンドレイズに携わり、経営陣として投資先に常駐したり、代表を務めたり、IPOを実現するなど、いろいろなことが経験できたことはラッキーだったなと思います。

仕事の楽しい部分について言うと、すごく勉強する分野が広いことです。投資先企業の業界はすべて違います。あらゆる業界の専門家にはなれないとはいえ、ある程度の知識を持って投資先企業に入っていかないと仕事はできません。経営や投資について学んだり、人間力を高めたりすることができるのは自身のキャリアにとってすべてプラスですし、やるべきことの幅が広く、いろいろなことを学びながら少しずつ自分のできることが増えていくのは、すごく楽しいです。

一方で、難しいなと思うのは、どうしてもマルチタスクになり、複数のいろいろなことを同時並行で進めていかないといけないので、自分が思っているほど、ひとつひとつのことに時間を使えないことです。そこはタイムマネジメントを含めて、しっかり改善していきたいところです。

たとえ1社だけを担当していたとしても、やるべきことはたくさんあります。ひと口に企業価値向上といっても、その手法は何百通りもありますから、その中から自分たちがやることを絞り込んでいったり、誰かに任せたり、周りの人たちを巻き込んでいかないといけません。周りの人を巻き込む段階で、自分がコントロールできないことが増えていって、私のような若輩者だと、まだまだうまくいかないケースがたくさんあります。

――投資先企業にはいろいろな人がいると思います。株主が変更したとはいえ、外部から来た新たな経営陣に反発する人も中にはいると思いますが、やはり大変ですか。

最初は難しいことも多いですが、結果的に3~5年経って、皆さんから「良かった」とか、「離れるのがさみしい」とか言っていただけるケースが多いので、そこはやりがいです。キャリアが浅い頃は、投資先の中に入って反発を受けると、自分自身でどうしていいのかわからなくなることもありました。しかし経験を重ねていくうちに、自分たちの私利私欲のためにやっているのではなくて、投資先のため、そこにいる方たちのためにやっていれば、そのことは必ず伝わることがわかったので、今はそういうことがあっても、それは苦しい時期で、ここががんばりどころだと見方が変わりました。

エグジット後の自律的な成長を可能にする
基盤づくりに注力

――現在の役割、業務内容について教えてください。

ファンドのディレクターは、自分で案件を見つけてきて、投資の可能性とリスクを社内に説明・説得し、実際に投資を行って、現場の責任者として、投資先企業の成長支援をリードしていく立場にあります。基本的には案件の仕掛けから、成長支援、エグジットまで全てをやる現場の責任者です。

新規投資案件の検討と、既存投資先の企業価値向上のバランスをとりながら、並行して仕事を行いますが、現在は後者に振り切った状態で、家電通販のMOAの代表取締役として、成長支援に集中しています。

――足元、コロナ禍の影響はいかがですか。

ファンドの投資先によって、少なからず影響を受けているところもあります。ただ、私の担当しているMOAでは、テレワーク需要等を追い風に、成長に向けてのアクセルを踏んでいる最中です。景気動向や外部環境の変化にかかわらず、全体のバランスの中でうまくやっていくことがファンドとして重要だと思います。

ファンド業界全体としては、コロナ禍によって案件がやや減っている印象を持ちますが、我々CLSAは今年に入ってすでに3件の投資を実行しました。これは平年レベル、もしくはプラスアルファの水準です。必ずしも再生案件ではありませんが、一時的に成長がストップしているような案件で、本来であればあまり市場に出てこないような投資先も出てきていますから、そこは冷静に投資判断を下していきたいと思います。

――今後、どのような案件に取り組んでいきたいですか。

私は全ての投資先において、我々がエグジットする時に、そこから先の成長が見えている状態でバトンタッチしたいと思っています。10年先までしっかり成長していくための基盤をつくり、次の方にバトンタッチするか、IPOを実現してほしい。

そうした観点から質問にお答えすると、我々がハンズオンで支援することで、例えばDX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組み生産性を上げるとか、海外展開をサポートして新たな市場を開拓するとか、そうした展開を可能にする基盤づくりに努めたいと考えています。

我々CLSAは香港を拠点にアジア全域にネットワークを持っています。海外市場へのアクセスがない企業は、ぜひ我々のネットワークを活用して、輸出を広げて、海外で稼ぐようなビジネス展開も積極的に検討していただきたい。人口が減少し日本の国内市場が縮小してもやっていけるような施策をお手伝いしていきたいと思います。

知識やスキル以上に重要なのは
学び続ける姿勢

――どのような知識、能力、経験を持つ人がファンド業界に向いていると思いますか。

会計やロジカルシンキングなど、最低限必要な知識、スキルはあると思いますが、それ以上に重要なのは、学び続けることができることだと思います。先述の通り、やることの幅がものすごく広くて、いろいろなことをどん欲に経験して、自分の糧にしていって、次の投資先や次の仕事にフィードバックしていき、周囲にいろいろな影響を与えられる人がいいと思います。

あとは、ファンドというと、どうしてもお金の力、資本の力と見られてしまいがちなので、それを超える人間的な魅力を備えた人がいいとも思います。その人独自の魅力をみんないろいろな形で持っていると思いますので、そういう人たちに集まってもらい、ぜひ一緒に業界を盛り上げていきたいです。

――これからファンド業界を目指そうという人にメッセージをお願いします。

いろいろな投資先企業の人たちと働いていて、ものすごく楽しい瞬間があります。何が共通点なのかを考えたときに、その業界に誇りを持って働いている人やその仕事が楽しい、好きですという人たちと一緒に働くと楽しいことがわかりました。MOAもそういうメンバーが集まっていて、そういう人たちと仕事ができて楽しいし、勉強にもなります。

それを逆の立場から考えたときに、我々はファンド業界の人間であり、ファンドマネジャーですが、我々自身もファンドマネジャーの仕事を楽しいと思っていたり、プライドを持ってやっているのであれば、それは多分、周囲に伝わります。私などはけっこう自分勝手に楽しくやらせてもらっているので、それは伝わっているんじゃないでしょうか(笑)。「毎日、徹夜ばかりで楽しくない。でも給料はいいから働いています」という考え方では、ポジティブなエネルギーは投資先に与えられません。

ですからファンドマネジャーの仕事をよく理解し、そのうえで本当にこれがやりたいとか、ファンドマネジャーの仕事が天職だ、楽しいといえるような人たちが集まってくれば、ファンド自体が与えられるエネルギーは増大していきますし、ファンド業界が社会のなかで確立されたポジションを得ることにもつながっていくはずです。

(インタビュー日時:2020年9月7日)