株主という立場で、経営のすべてに
たずさわれるのが一番の魅力
ダイナミズムがダントツに面白い
「PEファンドと人材」の実情とは

キャリアインキュベーションは2000年創業の人材紹介会社。CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)といったCxO人材をはじめ、コンサルティング業界やプライベート・エクイティ(PE)業界のプロフェッショナル人材などを専門とする。

同社はPE業界向けには、PEファンドで働くプロフェッショナル人材および投資先の経営人材の転職を支援しており、外資系・日系を問わず、紹介実績は業界トップクラスを誇る。日本でPE業界の黎明期から支援しており、パートナー、マネージング・ディレクター(MD)から現場の投資プロフェッショナルに至るまで、幅広いネットワークと強いパイプを持つ。

キャリアインキュベーションのマネージング ディレクター、佐竹勇紀氏に、PEファンド業界の動向や、PEファンド向け人材採用のトレンド、PEファンド人材のやりがいなどについて聞いた。


――PEファンド向けの人材紹介にたずさわったきっかけを教えてください。

前職はJACリクルートメントという人材紹介の会社にいましたが、2010年に金融業界向けに人材紹介するチームに異動になり、その中の一つのお客さまとしてPEファンドがありました。そのときからPEファンドとお取引をさせていただいているので、これまで10年以上、PEファンド向けに人材紹介を行っています。

弊社(キャリアインキュベーション)に入社したのは2014年の春なので、現職では7年間ぐらいです。弊社に入ってからは完全にPEファンドに特化して人材紹介をさせていただいています。

国内外から資金流入が大幅増で                                        どのPEファンドも拡大基調

――この数年のPEファンドの人材採用のトレンドはどうですか。

ここ3~4年は、少なくとも私が見ているリーマン・ショック後のマーケットの中で一番採用が盛り上がっています。どのファンドも非常に活発に投資しており、人員も拡大基調がトレンドだと思います。

――PEファンド業界そのものが盛り上がっているということですか。

おっしゃる通りです。リーマン・ショックで一気に業界がシュリンクし、その後、ファンドレイズ、投資、採用など徐々に回復してきましたのですが、ここ3~4年はかつてない活況を呈しております。

――PEファンド業界が盛り上がっている背景は何ですか。

一番大きいのは国内外からのPEファンド業界への資金流入だと思います。低金利環境下でオルタナティブアセットに資金が流入していますが、その中でも特に最近はPEファンドが注目されているということがあると思います。

――「コロナ禍」は、PEファンド各社の採用動向に何らかの影響はありますか。

総論としては、ありません。第1回の緊急事態宣言が発出された2020年4月、延長された同年5月は、いったん採用活動を止めているPEファンドもあったのですが、第1回の緊急事態宣言明け(解除)からは、まったく以前と同じようなマーケットに戻り、むしろ、以前よりも過熱しているような印象があります。

――まったく影響はないということですか。

まったく影響がなかったですね。その背景は、私たちの理解で言うと、金融機能がマヒしなかったという点だと思います。ここがリーマン・ショック時と大きく違うと思います。

PEファンドは、一度ファンドレイズすると、キャッシュフローが安定します。仮に瞬間風速的に景気が落ちたとしても、PEファンド自体へのキャッシュフローには影響はあまりないため、そこで採用を止めるという意思決定になりにくいのかなと思います。もちろん投資先で影響がある先は多くありますが、今回のコロナ禍で、PEファンド自体は、短期的な景気変動に対してディフェンシブな業界だと改めて感じているところです。

外資から日系まで80社-取引先PEファンド

――キャリアインキュベーションでは、グローバルな大型PEファンドから、中小のPEファンドに至るまで、幅広く人材を紹介しているのですか。

そうです。グローバルなファームから、スモールキャップの投資をしているファンドまでお取引いただいております。取引社数は約80社になります。

――PEファンドは、どのような経歴、能力、マインドセットの人材を求めていますか。

経歴としては、ほとんどが、フィナンシャルアドバイザリー(FA)の経験か、コンサルティングファームでのコンサルティング経験をお持ちの方になります。

――グローバルな大型PEファンドと中小のファンドでは、求められる人材は変わりますか。

大きくは変わらないと思いますが、グローバルファームの投資案件は、基本的に大型案件になるので、どちらかと言うと、「スピード」、「分析力」で勝負している方々が多いという印象です。

中小ファンドは、「スピード」や「分析力」ももちろん求められますが、それよりも「人間力」とか、「オーナーさんに気に入られる力」とか、「中小企業の人たちを動かしていく力」のようなものが、より強く求められているという印象を持っています。

――海外ビジネススクールなどでのMBA取得者は多いですか。

MBA取得者はけっして多くはなく、日系だと1割強ぐらいです。外資系でも3割前後にとどまっています。MBAを入社時にお持ちの方はさらに少なく、入社後に取られる方が多いです。MBA採用枠で入る方ももちろんいるのですが、全体から見るとそれほど多くありません。

――貴社はどのような形で、PEファンドへの応募候補者と出会うのですか。

弊社のホームページからご登録に来られる方が3分の1から半分ぐらいです。
それ以外は、リファーラルです。過去にご紹介させていただいた方のご友人、知人等のご紹介です。あとは、お客様からご紹介いただくこともあります。この業界ではそれを総称してリファーラル、紹介人材と呼びます。

あとは、データベースにご登録されている方のスカウトもしますし、場合によっては、ヘッドハントのような形で、直接その方に何らかの形でご連絡させていただくということもしています。

企業経営の全フローにたずさわれることが一番の魅力

――PEファンド業界で働く魅力や難しさは何ですか。

株主という立場で、企業経営すべてにたずさわることができるというのが一番の魅力だと思っています。
コンサルティングファームだと、事業面などに関わるのですが、そもそも事業の課題はお客様から出てくることなので、自分からゼロベースでの課題設定ができないというもどかしさがあったり、提案した内容が実行されるかどうかはクラアント次第というもどかしさがあったりすると思います。FAであれば、M&Aのディール・クローズ後の経営がどうなっていくのかが見えなかったりします。

PEファンドの魅力は、当事者としてM&Aに関われること、そして買収後にも一気通貫というか、企業経営の全部のフローへ関与できるところです。ただ、カバー範囲も、財務や事業だけではなく、総務も、法務も、税務も、企業経営の活動に関わるものすべてになります。すべての物事がファンドのイシューになるので、そこが面白さであって、難しさであると思います。

――応募候補者は最初からさまざまなイシューに対応ができる人材が多いのですか。

最初からすべてに対応できる方は少ないです。何かしらの専門性がある方で、能力を横に広げられて行くポテンシャル、潜在能力みたいなところで評価されていると思います。

あえて誤解を恐れずに申し上げると、PEファンドの方は、すごくジェネラリストな能力が必要です。もちろん出身のバックグラウンドによって、コンサルの方であれば事業面が得意だったり、FA系の方であれば財務だとかM&Aに関わるリーガル面が得意だったりとか、いろいろな強みを持っています。

ただ、先ほど申し上げた通り、得意な領域以外の、例えば税務、人事などにも対応が必要になってきますので、企業経営に関わる物事を幅広く知っていて、専門家とある程度ディスカッションでき、より専門的な内容は専門家に任せるというように、コーディネートをしっかりできるかどうか、正しい判断ができるかどうかが求められていると思っています。

PEファンド業界は新卒を採用しませんので、新たに業界に入ってくる方は皆様PE未経験になります。そのため、繰り返しになりますが、PEファンド側も、どれぐらいの対応能力がありそうか、というようにポテンシャルを見ているのかなと思います。

PEファンド人材は「志向の整理」を

――PEファンドの応募候補者に対して、どのようなアドバイスをされるのですか。

アドバイスではないかもしれませんが、「志向の整理」を一緒に行うことを心掛けています。「そもそも何をしたいのか、それって本当にPEファンドなのか」という問いかけをしっかりとさせていただいています。ここが曖昧だと、なかなか選考も通過しづらいですし、入った後、あまりハッピーな結果にならないことが多いので、念入りにやっているつもりです。

具体的な求人紹介のフェーズでも、何がやりたいのかに合わせてご紹介を行います。
単純な話で言えば、「大企業のカーブアウト(事業切り離し)を手掛けてみたい」という方には、「ラージキャップのファンドでないとできませんね」とお伝えしたり、「現場を動かすような経験をファンドの中でやりたい」という方には、ミッド・スモールキャップで、よりハンズオン色が強いところをご紹介したり、といった具合に、ご本人の希望に合わせてPEファンドをご紹介するようにしています。

――PEファンドでは人材の選考はどのように行われていますか。

インタビュー(面接)と筆記、ケーススタディ、モデリングテストの組み合わせで行われます。各社によってタイトルの呼び方が違いますが、インタビューは、パートナー、MDといった、最上位のレイヤーの方々とは必ずワン・オン・ワンで全員お会いするというのが一般的だと思います。

プラスアルファで、中堅の方とも会ってくださいとか、あるいは少数のファームなら、全員インタビューしてオファーを出しますというファンドもあります。

このインタビューに加え、筆記テスト、ケーススタディ、モデリングテストなどの組み合わせで選考プロセスが進められます。

――応募候補者は実務をある程度理解しておく必要があるということですか。

そうですね。実務を理解していないと、志望動機もしっかりと相手に響く内容には作りこめないと思います。
また、昨今はモデリングテストを実施するファームも増えています。たとえば「LBOモデルをスクラッチでリターンまで出してください」というようなものです。実務を理解するだけでなく、最低限のモデリングスキルも求められていると思います。

――応募候補者にお薦めの教材などはありますか。

LBOモデルであれば、海外の研修提供会社Wall Street PrepのLBO教材(価格は十数万円)をお薦めしています。
弊社でも年に1~2回モデリング講座を実施予定ですので、ご相談いただきたいと思います。

報酬体系は基本給・賞与・キャリーの3階建て

――PEファンドの報酬体系はどうなっていますか。

基本給と賞与とキャリー(キャリードインタレスト)の3階建てになっています。賞与の支給方法は会社によって異なりますが、年間ほぼ固定的にもらえる賞与以外にも、投資やエグジット時に特別賞与が出る場合もあります。

――PEファンドにおける年齢や経験年数、役職などに基づく基本給はどうなっていますか。

ほとんどの会社において基本給はタイトル(役職)にリンクしています。
金額感は、日系PEファンドは日系証券の投資銀行部門、外資PEファンドは外資系投資銀行とニアリーイコールの水準だと思ってください。
この基本給以外にキャリーが支給されますので、やはり夢がある世界だと思います。

――PEファンド独自の特別な報酬であるキャリー(キャリードインタレスト)について詳しく教えてください。

単純化してご説明すると、ファンドの超過利益の部分を、概ね8対2で、8の部分を出資者であるLP(リミテッド・パートナー=有限責任組合員)、2の部分をファンド運営会社であるGP(ゼネラル・パートナー=無限責任組合員)で分配します。その2の部分をファンド運営会社の社員へ支払うのですが、これがキャリーと呼ばれます。

また、基本給、賞与、キャリーとは別に、ファンドへの出資権利が付与されるケースも多くあります。自己資金は必要ですが、一般の個人投資家はアクセスできないアセットに投資できるファンド在籍者ならではの特典ですね。
この出資にも大きく二つのパターンがあります。ファンド自体に出資するパターンと、個別案件に出資できるパターンです。

投資先の人材には「粘り強さ」が求められる

――PEファンドの投資先採用では、どのようなポジションの人材を求められることが多いですか。典型的な事例を教えてください。

それぞれのディールによって毎回異なるのですが、一番多くオーダーをいただくのはCFOの採用です。例えば事業承継の案件ですと、経理自体を税理士にアウトソースしていて、社内は伝票チェックの人しかいないというケースがあったり、カーブアウトの案件ですと管理部門がそもそも存在しないケースだったり、CFOのニーズは強いです。

――PEファンドの投資先の人材について、共通して求められる経歴、能力、マインドセットはありますか。

ポジションによって求められる経歴、能力は異なります。
マインドセットとしては「やりきる」、「途中で投げ出さない」などです。修羅場・土壇場・正念場でも逃げ出さずに、しっかりミッションをやり遂げる「粘り強さ」が、非常に強く求められると思います。

――経営人材の応募者とどのような機会で出会うのですか。

もともと弊社は20年ぐらい経営人材紹介をやっているので、今までの人的ネットワークが一つあげられます。さらに先ほどお話した、リファーラルですね。また、上場企業の役員等企業の経営幹部の方々に直接コンタクトし、面談の機会を得ることもあります。

――リテーナーフィーをもらって探す場合もあるのですか。

はい、リテーナー案件も手掛けております。

――PEファンドに入社して投資先に派遣されるのと、それとも投資先で直接雇用や役員に就任するのと、どちらが多いですか。

基本的には投資先での直接雇用、役員就任になります。

――PEファンドが、投資先からエグジットすると、経営人材もお辞めになるケースが多いのですか。それともその後も継続して投資先企業で働くケースが多いのですか。

エグジット時点でお辞めになる方は半分くらいでしょうか。「エグジット後、数年のうちに」というところまで入れると、かなりの割合でお辞めになる方が多いと思います。

――またPEファンドの投資先の経営職を何社も歴任する方も多いのですか。

はい、PEファンドの投資先で連続的に何社もCEO/CFOに着任する事例が増えつつあると思います。
「Aファンドの投資先でCEOをやっていた方が、次はBファンドの投資先でCEOをやる」というようなものです。いわゆるプロ経営者と呼ばれる方々です。

――PEファンドとして、「こうすればもっとよい人材を採用できる」という提案はありますか。

どちらのファンド様も、過去にCFO、CEOを経験した方を採用したいと考える傾向があります。その意思決定はとても理解できるのですが、自らの「経営者プール」を増やしていく取り組みも必要かなと思っています。今プロ経営者と呼ばれる皆様も、いずれ年齢を重ねて引退していかれますので、チャレンジングかもしれませんが、「経営者プール」を増やすような取り組みをやっていくことによって、人材戦略のオプションを増やしていくことができるのではないかと思います。

頼られるのが「やりがい」-人材コンサル業務

――どのような時に人材コンサルタントとしてのやりがいを感じますか。

私は採用自体が決まること、業界で言う「成約」にモチベーションが沸くタイプではなくて、どちらかと言うと採用する時に、「どうやったら採用できるか」とか、上流の工程でご相談を受ける方に喜びを感じるタイプです。

「このような人をこのような形で採用したいのだけれど、そもそもアプローチとして合っているかどうか」、「弊社とどのようにパートナーシップを組むことができるのか」、「新しい形は無いのか」というような相談を受けることに喜びを感じます。ですから、やりがいを感じるのは「頼られた時」ということですかね(笑)。

候補者の方々とのやり取りでも、入社が決まった瞬間はもちろんそれはそれで嬉しいのですが、「佐竹さんに相談してよかった」、「アドバイスが役に立った」と言われた時の方が嬉しいですね。

――PEファンドのプロフェショナルを目指す方や、PEファンドの投資先の経営人材を目指す方に向けてメッセージをお願いします。

人材紹介という仕事をしていると、本当に様々な業界の方からお話を聞くのですが、その中でも、PEファンドでの仕事は、当事者として企業経営に広く関われるという点で、ダントツに面白いと思います。

経営のレバーをすべて握ることができるというのは、ファンドならではだと思います。かつ、若手のうちからそれに取り組めるというのは、面白さしかないと思います。もちろんその分、結果責任を問われるので、相当にプレッシャーはあると思いますが。

選ばれた人しか行けない世界だと思いますので、そこでチャレンジしたいという野心のある人には強くお勧めしたいと思います。

(インタビュー日時:2021年2月10日)